○連載の2回目は、前回の答え合わせから
前回、「手元の現預金は、毎月の売上高の何ヵ月分あれば安全?」という質問をしました。この答合わせをしてみましょう。
一般に、経営の安全性を評価する指標として「手元流動性比率」が使われます。これは、現金や預金、換金が確実な売掛金や有価証券などの合計が、月商と比べてどのくらいあるかを示す財務指標です。
手元流動性=現金+預金+確実に換金できる売掛金や有価証券など
この手元流動性が2以上であることが、最低限とされています。つまり、2ヵ月間売上がゼロでもお金がなくならない状態ということです。
○業態により必要運転資金は変わってくる
ただし「必要資金量」を考える上では、問題はもう少し複雑です。例えば小売業とサービス業とでは、売上規模が同じでも必要な運転資金量が変わってくるのです。
仮に、小売業A社とシステム開発会社B社があったとします。話を単純にするために、毎月の売上は両社とも1000万円。この時、両社が必要とする資金には違いが出るのです。何故でしょうか。
当たり前ですが、小売業の場合、商品を仕入れる代金が必要です。システム会社では(すべて内製していれば)外注加工費などの仕入れ代金は必要ありません。また小売業の場合、仕入れ代金は先に支払い、一定の在庫期間を経たうえで現金売上になります。システム会社の場合は仕入れ代金は必要ありませんが、請求書を送ってから入金までには一定の時間がかかります。その間は売掛金(代金を受け取る権利)という状態になるわけです。
下図は、この2つの会社のPL(損益計算書)とCF(キャッシュフロー計算書:昔は資金運用表とも言っていました)を表したものです。話を簡単にするために、両社とも毎月1000万円の売上があったとします。A社の仕入原価は900万円、その内まだ売れていない在庫が300万円、給料や家賃を含む経費が300万円。B社は商品仕入原価ゼロ、システムはすべて内製で、経費が900万円、売掛金回収に1ヵ月かかるとします。
両社のPLは以下になります。
ではCF(キャッシュフロー計算書)はどうなるでしょうか。
この月末残高の300万円という差はどこから生まれたのでしょうか。・・・そうです、A社には300万円の在庫が眠っているのです。
話を単純化しましたが、一般に商品仕入れがある小売業の方が、売上高に対する必要資金量は多くなります。また最近では小売業でもキャッシュレス決済が一般的ですので、現金がいつ銀行口座に入金されるかによっても必要資金は変わってきます。実際には様々な条件で取り引きが行われ、話はかなり複雑になるのです。
なお上表では経費に大きな差がありますが、1人当り付加価値(これについては回を改めて説明します)は一般に業態に関わらず同水準となります。上表では小売業A社は3人、システム開発業B社は9人で見積もっています。
○なぜ「負債」と「売上」が同じ性格を持つのか?
さて、答え合わせが長くなりましたが、今回の本題に入ります。
会計を理解するために、まず基本となるPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)の関係を見ていきます。
下図は試算表の雛形です。試算表(TB:Trial balance)とは一定期間のすべての取引を複式簿記により仕訳(※)を行い、その結果を一覧表にしたもので、PLとBSが一緒に表示されています。月次決算では、だいたいこの試算表が登場します。
※「複式簿記による仕訳」は回を改めて説明します。この「仕訳」を理解すると会計がより明快に理解できるようになります。
ここで注目していただきたいのは、右側に「負債」「資本」「収益」が縦に並んでいることです。つまり、会計では借入金などの「負債」と、売上などの「収益」が同じ性格を持っている、と言っているのです。何故だかわかりますか?