第8回:「経営戦略」のツボを理解し、「フレームワーク」を使えるようになろう!

第8回:「経営戦略」のツボを理解し、「フレームワーク」を使えるようになろう!

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

前回の第7回まで、会計の「幹」の部分をお話しました。今後追加で枝葉のトピックは取り上げていきますが、会計にはいったん区切りをつけ、次は「経営戦略」にいきたいと思います。

経営戦略というと、テーマが大きくてかなり漠然としています。論客もたくさんいて、全部をカバーすることはとてもできません。

またこの連載の趣旨は「失敗しないコツ」であって、「成功の秘訣」ではありません。成功する経営戦略は、それぞれ会社の現場から産み落とされるものであり、僕がお伝えできるのはせいぜい「失敗を回避するためのコツ」だと思っています。

ですので、ここでは経営戦略というテーマで、必ず押さえるべきツボをお話しします。

●「経営戦略」を定義し、過去の知見を「体系化」しておくことが重要

論点が拡散するといけませんので、今回は結論を先にお話します。

  1.  経営戦略を明快に「定義」する。
  2. 経営戦略に関わる過去の「知見」を知る。
  3. その知見をフレームワークで「体系化」しておく。
  4. 「フレームワーク」をバージョンアップし続ける。

要は、先人たちの知見を体系的に理解し、すぐに使える状態にしておくこと。これから数回にわたる「経営戦略」の章でお伝えしたいのは、そういうことです。

これを理解していると、経営戦略や事業戦略を立案したり、何かの問題解決をする時に、極めて効果的・効率的にアウトプットができるようになります。

ただし、フレームワークに依存しすぎないことに注意が必要です。フレームワークを埋めても、過去の成功事例が再現されるわけではないからです。フレームワークは「Why:何故そうなったのか」には答えてくれません。フレームワークをツールとして使いながら、自分の頭で考えて初めて、自社に有効な経営戦略が導き出されることに留意してください。

30歳の頃の僕は、これが分かっていませんでした。当時、UPUという採用PR会社で営業を担当しており、幅広い業種の、それも大手企業を中心に営業をしていました。業界に関する多くの知識を得て、かなりの業界通になっていたわけです。

移動時間や喫茶店では、日経新聞と日経ビジネスを読んでいました。担当するクライアントや業界に関する書籍もたくさん読みました。今から思うと、それなりに頑張って学習していたと思います。

ところが、その知識が役に立った記憶がありません。お客さんとの会話くらいには使えましたが、事業戦略を立案したり、企画コンセプトを立てたりという肝心なところでは、断片的な知識の積み重ねではダメだったのです。

昔の自分にアドバイスするなら、知識を格納する「フレームワーク」を最初に持つべきだ、と助言するでしょう。断片的な知識を体系づけ、効果的かつ効率的にアウトプットするには、自分なりの「型」を持っている必要があるのです。

経営戦略の「フレームワーク」の話をするために、まず「経営戦略」を定義しましょう。多くの論者がさまざまな経営戦略論を提唱していますが、ここではそれらを編集して、以下のように定義しておきます。

「企業の長期目的と目標を策定し、外部環境の変化に適応するように内部資源の配分を組み替え、目的・目標と整合する活動方針を決定すること」

この定義を補足すると、以下のようになります。
○長期目的・目標とは、経営理念、経営ビジョン、経営行動指針などです。
○外部環境には、市場環境、競争環境、制度的環境、技術的環境などがあります。
○内部資源は、人・モノ・金・情報です。
○活動方針には、成長戦略、競争戦略、機能戦略が含まれます。

では、この経営戦略の定義を、エイヤっと体系化してみましょう。

●経営戦略の体系化01:「経営階層」に着目

まず「経営階層」に着目した体系化をしてみます。階層化された企業組織で、各階層のマネジメントが何を行うかという図です。

経営トップの役割は「理念・ビジョン」を決定し、企業戦略(成長戦略)を明確にすることです。それが各事業のミドル層にブレークダウンされ、事業戦略や機能戦略が策定されます。そしてロワー層が各タスクの遂行に責任を持つ、というピラミッド型の階層になります。

ちなみに、経営階層によって求められるスキルが変わってきます。トップ層には戦略構築能力が、ロアー層にはタスク遂行能力が特に求められます。対人関係能力は各層に共通して求められることに留意が必要です。

■経営階層に求められるスキル

●経営戦略の体系化02:「経営プロセス」に着目

次に、経営戦略を遂行する「プロセス」に着目して体系化してみます。これは、おなじみのPDCA(マネジメントサイクル)です。そしてPDCAの中心には、意思決定理論がある、と僕は考えています。

PDCAは、今では当たり前のように使われています。ポイントは、その中心に「意思決定」という行為があることです。正しい意思決定をいかに行うか。これにもさまざまな理論やアプローチがありますが、回を改めてご紹介します。

●経営戦略の体系化03:「事業戦略」に着目

最後に、企業内部の経営資源と外部環境との間に設定される「事業戦略」に注目した体系化をしてみます。

事業戦略とは、外部環境の変化に適応した経営資源の配分を行うことです。そして戦略立案に必要な分析手法として、SWOT分析、3C分析、ファイブフォース分析、VRIO分析などがあります。

いろいろと聞き慣れない用語が登場しているかもしれませんが、詳細は検索してください。すぐに出てきます。重要なことは、それを自分なりの「型」で関連づけて体系化し、それを磨き続けることです。

要は、どの「型」でも良いのです。重要なことは、たくさんある経営戦略に関する知見を自分なりに「体系化」しておくということです。ちなみに上記の図は僕が恣意的に作ったもので、どれが正解というわけではありません。でも自分なりに体系化しておけば、すぐに使えるツールになり得ます。

●1960年代までの経営戦略論の集大成はBCGによる「PPM」

体系化したフレームワークに肉付けをしていきましょう。

ここでは経営戦略論を提唱した先人達の知見の一部を、抜粋してご紹介します。ここに毎日接するニュースやビジネス書、自分自身の経験などから得られた知見を加えて、自分の「型」を日々バージョンアップしていくことになります。

先人達の知見は、例えば以下のようなものがあります。詳細は検索していただければ必ず見つかりますが、それぞれの経営戦略が生まれた時代背景やポイントをざっと見ていきます。

○テーラーの科学的管理法:1910年代に提唱されました。作業の標準化と分業制による生産性向上が主たる論点で、大量生産された自動車の大ヒット商品である「T型フォード」を生んだマネジメント手法です。

○メイヨーの人間関係論:科学的管理法の欠点として、人間性への配慮が十分ではないという弊害がありました。チャップリンが「モダン・タイムス」で風刺した工場を思い起こします。それを克服する方法として提唱されたのが人間関係論です。これは労働意欲向上のためには、作業環境の改善よりも、良好な人間関係の構築の方が効果的であることを実証したものです。現代の働き方改革にも役立ちそうな理論ですね。

○フェイヨルのマネジメントサイクル:工場だけではなく、企業全体の経営管理法として提唱されました。企業活動を6つに分割し(後のバリューチェーンの原型です)、経営管理プロセス(PDCA)の重要性を説きました。これは現代でも有効な考え方です。

○バーナードの組織成立要件:1929年の世界恐慌という大きな環境変化に対応するため、企業組織には共通目標、貢献意欲、コミュニケーションが重要であるとしました。そして共通目標である「経営戦略」を作るのが「経営者の役割」であると提唱しました。先に見た経営階層の元になった考え方です。

○アンゾフの事業ポートフォリオ:1960年代に事業多角化を図る企業が増えたことを背景に、成長戦略のベクトルを事業ポートフォリオとして整理した理論です。後にボストン・コンサルティング・グループにより、PPM(Product Portfolio Management)という戦略管理ツールに発展します。これは横軸に相対的市場シェア、縦軸に市場成長性を置き、4象限を「問題児」「花形」「金のなる木」「負け犬」と命名して、企業が複数の事業戦略を検討するフレームワークとし現在でも有効な理論です。「金のなる木」で得た利益を、市場成長率の高い「問題児」に投入し、「花形」に育成するのが基本戦略となります。

■PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)

○チャンドラーの組織戦略:事業ポートフォリオの浸透により、企業が拡大成長する時には機能別組織から事業部制へ移行することを理論化しました。「組織は戦略に従う」という命題は、今でも有名です。

以上のように、各論者の着目点は、その時々の時代背景を踏まえて変化してきたことがわかります。

●マイケル・ポーターの「ポジショニング・アプローチ」とは何か

その後1970年代以降には、マイケル・ポーターが「競争の戦略」を提唱します。ポーター教授は、企業が競争戦略を考える際に、企業内部の経営資源に加えて外部環境の分析をした上で戦略を策定することが重要であると説きました。

そして5つの競争要因を分析することで、自社の置かれた経営環境を精緻に理解し、適切な施策を能動的に設計できると提唱しました。有名な「5フォース分析」です。

① 新規参入の脅威
② 代替品の脅威
③ 買い手の交渉力
④ 売り手の交渉力
⑤ 業界内の競争

この5つの競争要因について、市場集中度、製品の差別化、スイッチングコスト、保有する情報量などを分析するわけです。

※連載の第7回で、ワークマンの事例をご紹介しましたが、この中で「5フォース分析」でワークマンが競争環境をどのように自己認識していたかに触れましたので、ご参照ください。

ポーター教授は「5フォース」分析を踏まえ、企業が競争優位を獲得し、利益を上げるための戦略として、以下の3つを挙げています。

① コストリーダーシップ戦略:シェアを高め、規模の経済や経験曲線効果で低コストを実現する。
② 差別化戦略:買い手にとって魅力的な独自性のある製品・サービスにより、価格以外で優位性を築く。
③ 集中戦略:市場を細分化し、自社能力にマッチした一部のセグメントに焦点を当てて、差別化またはコスト優位を築く。

■マイケル・ポーター「競争戦略」

つまり、競争優位を見定めるツールが「5フォース」分析であり、競争優位をどのように実行するかが「3つの基本戦略」というわけです。この一連の考え方を「ポジショニングアプローチ」といい、企業が市場内のどの「ポジション」を取るかが重要だ、というメッセージをポーター教授は投げかけたのです。

●ケイパビリティ派の反論にも注目、最終的には統合へ

一方で、1980年代に登場したゲイリー・ハメルの「コアコンピタンス経営」では、持続的な競争優位をもたらすのはコアとなる企業能力(ケイパビリティ)であり、そのコアコンピタンスを有効に活かせるポジションを見定めることが重要、としています。ポーター教授とは正反対の主張を展開しているわけです。

同じケイパビリティ・アプローチをしたジェイ・バーニーは、持続的な競争優位の源泉となる経営資源を分析する「VRIO分析」を提唱しました。これは自社の経営資源を、資源の価値(Value)、資源の希少性(Rarity)、資源の模倣困難性(Inimitability)、組織(Organizations)の4つから分析し、特にノウハウや専門スキルといった情報的経営資源が設備などの物的な経営資源と比較して模倣困難性が高く、持続的な競争優位につながるとしました。

以上のようにポジショニング派とケイパビリティ派は論争を繰り広げたのですが、これを統合したのがヘンリー・ミンツバーグの「コンフィギュレーション理論」です。これはどちらを重視するかは、その企業が置かれている状況によるものだ、という考え方で、戦略はパターンかできるものではなく状況次第で組み合わせる必要がある、という主張です。当然といえば当然ですよね。

さて、ここまで経営戦略論の歴史を駆け足で見てきました。繰り返しになりますが、ポイントは自分なりのフレームワークを使って、様々な経営戦略に関する知見を体系化することです。経営理論に関する参考書籍としては、下記が僕のお薦めです。800ページ以上ある大著ですが、学ぶべき標準としての理論が網羅されています。

入山章栄氏「世界標準の経営理論」

「経営戦略」の章では今後、特に重要なものについて、事例なども交えて触れていきます。ご期待ください。

●ここがポイント!

  • 1. 経営戦略を明解に「定義」する。
  • 2. 経営戦略に関わる過去の「知見」を知る。
  • 3. その知見をフレームワークで「体系化」しておく。
  • 4. 「フレームワーク」をバージョンアップし続ける。

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この記事のライター

(株)ソクラテス代表 寺澤浩一

(株)ソクラテス代表取締役。 学生時代(慶応義塾大学文学部)よりコピーライターとして活動。1980年、(株)ユーピーユー入社。営業、編集、経理財務などを経験。1998年、(株)ソクラテスを設立。中小企業診断士として経営全般のコンサルティング、及びコンテンツ制作を行っています。

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