ケンとの出会いから数年が経ったある日、私は故郷の海辺の街に戻ってきました。東京での生活が忙しく、ほとんど故郷を訪れなくなっていましたが、夏の訪れとともに懐かしい風景を求めて帰ってきたのです。

バスの窓から見る風景は変わっていませんでした。青い海と、砂浜に広がる白い砂、そして水平線に広がる青空。それはまるで私が出発する日から一日も経っていないかのように美しいものでした。

街を歩きながら、昔の思い出が次々と蘇ってきました。あの頃、私は精神的に迷子で、自分自身と向き合うことができなかった。だが、ケンとの出会いが、私の人生に大きな変化をもたらしていたのです。

バーの前を通り過ぎると、思わず立ち止まりました。バーの看板は古びていましたが、開店の時間になる前から数人の客が入り口で待っていました。リョウコの手作りのフライドポテトの香りが、鼻をくすぐりました。

バーが道路拡張計画に巻き込まれたことを聞いていましたが、なんとか存続していることにほっと胸をなでおろしました。店の前で立ち尽くす人たちも、この場所を愛しているのでしょう。

バーの前でリョウコとひとしずく交わし、彼女からビールとフライドポテトをご馳走になりました。リョウコは年をとりましたが、その笑顔は変わらず、居心地の良い雰囲気を持ち続けていました。

「お前、まだ小説を書いているのか?」と私が尋ねると、リョウコはにやりと笑って答えました。

「もちろんさ。ケンからもらったヒントを大事にしているんだ。毎年クリスマスに、新しい作品のコピーを送ってくれるんだ。」

リョウコはバーテンの仕事を続けながら、自身の小説にも情熱を傾けていました。彼女の言葉は私に勇気を与え、再び自分の夢に向かって歩き出すきっかけとなったのです。

夕方、海辺の道を歩きながら、私は遠くの水平線を眺めました。あの夏、ケンと一緒に歩いた道を思い出します。彼女との出会い、リョウコのバーで過ごした日々、そしてケンとの友情。それらが私の人生に彩りを添え、成長させてくれたのです。

思い出に浸りながら、私は新たな夢と目標を抱いて、東京へ帰ることを決意しました。過去の出会いと経験が、未来への一歩となることを信じています。

人生は出会いと別れの連続ですが、その中で学び、成長し、自分を見つけるのです。私の人生におけるケンとの出会いは、その大切な一歩であり、ずっと心に残ることでしょう。そして、未来に向かって歩む冒険の始まりでもあるのです。


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