夢なんてたいそうなものではないが、こういうふうになりたいと願って努力していたのだけど、10年間かけても芽が出なければ、それは才能がないという証明なのではないかと区切りを付けたよ。だってそうだろ? 10年だぜ、10年。後悔はしていないけどさ。バカバカしく思えてしまうよ。何やってたんだろうってさ。
人生の中で10年間熱心に追いかけているものがあるかい?
10000時間、そのものについて研鑽を積めばプロレベルになるって話し知ってるだろ。あれ、ウソだぜ。けっこう頑張ったもの。本気だったんだ。だぶんね。
学生時代の大半を費やして取組んでみたけれども難しくてさ。裕福な家庭ではないから、就職活動して、何とか内定を勝ち取ったよ。奨学金を返済しなければならなかったしね。
少しでも関わりたいと思って、書店員になったのさ。まあ、書店員になったからって表現が上手くなることも、新しいアイディアが浮かぶってこともなかったよ。今考えるとバカな選択だったね。僕の仕事は小売店の職員で、売れるものを入荷してお客様に見やすいように展開する。後は効率的にシフトを廻したり、業務改善とかして生産性を上げる。とにかく売上を上げたら正義だった。まじめに働いていたら店長になってたよ。本当に欲しいものは何一つ結果が出ないまま。貯金残高だけ増えていった。
そんな時、気付いたんだ。これ意味ないなって。やりたいことに集中してなくて、生活のために働いているのだけれどさ、お金は増えるけど使う宛てもなくて、サブスクで動画見て、マックでチーズバーガーを食べれていたらそれで十分、そんな生活しか求めていない、それなのにサービス残業しながら店の売り上げを上げる意味ってあるの? この先の目標ってエリアマネージャーでしょ。そんな人生を求めていたわけじゃない。そう思ったね。若かったんだよ。
初めて転職活動したときはビビったね。今や、嫌になったら辞めてやる、ってくらいフットワークが軽くなっているよ。
転職して、書店員時代より時間が取れるようになって、自由な時間が増えた。まあ、ビビって正社員を選んだから1日9時間は拘束されているんだけどね。
創作に費やす時間もエネルギーも増えたんだけど、本気というか、僕には切実さや狂おしいほどの熱量がないのが根本的な原因なのかもしれない。30歳を超えても才能は開花しなかったよ。
今はもう、心のどこかで諦めてる。そんなこと分りきっているし、けっきょく生活のために働き続けなければならないし、何もかもが時よりどうでも良くなって意味もなく叫びたくなるよ。
心が枯れてしまったのさ。
何もかもしてて夢中になれると思えたあの時の感覚は消えてしまった。このことが一番悲しい。もう、終わってしまったんだなって。
夢が叶うかとか、そんなんじゃなくてさ。夢中で追いかけていたあの頃の僕が今の僕を置き去りにして、どこか遠くへ行ってしまったんだよ。
だから、今の僕は何にだってなれるのさ。
新しいことを始めたって良い。
可能性は無限大さ。
そう思ってないとやってられないよ。
それじゃあ、またね。
バイバイ。