タバコの話を聞いたのは小学生の時だった。
一番、覚えているじいちゃんは椅子に座り、寝ている姿だ。ガンになって胃を半分くらい摘出したから、昼食後に二時間くらいは椅子に座ってウトウトしていたよ。ヘビースモーカーで優しい人だった。
小学校の宿題で第二次世界大戦を経験したおじいちゃん、おばあちゃん、から話を聞いて感想文を書く、というものが出た。なので、僕はじいちゃんに話を聞いたんだ。
じいちゃんは第二次世界大戦の時に二○代前半くらいだったそうだ。
第二次世界大戦は映画やアニメ、ドキュメンタリー番組などで見たことがあるくらいの知識しかなかったよ。敗戦が濃厚になっても、最後の一兵になったとしても戦うことを強いられた若者たち、沖縄での悲劇、そして原爆、日本の末路は言うまでもないね。
じいちゃんが満州にいた頃の話をしてくれたよ。丸一日、歩かされて、寝ながら歩いたことや、銃撃戦になってヘルメットの上を弾がかすめたこととか、笑い話のように話してくれた。今ならよく分かるよ。昔あった苦労を笑い話にして消化してしまうことを。
戦争での様々な出来事を笑いながら話してくれたじいちゃんがタバコを吸う様になった理由をばあちゃんが教えてくれたんだ。何の話の流れからだったか覚えていないんだけど、戦争中の話を聞きに行った時だったと思う。
父親が早くに亡くなったため、じいちゃんの家は貧しかったそうだ。優秀な成績だったが、じいちゃんは初等部を卒業後、進学はせずに家業を手伝うことにしたらしい。そして、二○歳の時にばあちゃんと見合い結婚したんだって。そして、直ぐに戦争になった。
まじめで努力家だから初等部卒業だけど、じいちゃんは新兵の教育係に任命され、班長になったらしい。
戦争時の嗜好品と言えばタバコでしょ? もちろん、じいちゃん達の班にも支給されたんだって。じいちゃんはタバコを全く吸わないから、同僚にあげたりしていたそうだ。
ある日、配られたタバコを部下たちが誰一人、吸っていないことに気づき、じいちゃんは尋ねたそうだ。
「おまんら、なんでタバコを吸わんのな?」
「いえ」
「なんじゃ、言えんのか」
「いえ、・・・・・・・・・、それは、・・・・・・・・・」
「怒っとらんけ、言ってみ」
「班長が吸っておられないのに私たちが吸う訳には、・・・・・・・・・」
そう言われたそうだ。
「そおか、分かった」
それから、じいちゃんは吸えないタバコに火を点けるようになったらしい。
「見ろ」
数日後、じいちゃんは部下の前でマッチを擦り、火を点けて白い煙を吹かせて見せた。
「ワシも吸うから、おまんらも吸いたいやつは吸いなさい」
このエピソードを聞いてから昼寝して、タバコを吹かしながらコーヒーを飲んでいるじいちゃんがカッコ良く見えたよ。