寄田、涌田、寺原、須野
LAY-RON
>>>In Firenze
LAY-RONの関係者は4名。
このフィールドに芥田たちを入れることは躊躇われた。
JERUSALEMで勝手にやってろと反発を覚えた時期もあったが、すでにJERUSALEMは聖書解訳の現実世界転例の役を与えられているのでと芽実にすごまれてしまったから、反論することはできなくなってしまった。
フィールドは長い間沈黙を守った。
新しい世界を開拓するためにあらゆる手段を試みて、ある程度の着地点を見つけたから、またここに戻ってきたそう言えるだろう。
俺たちは事実をもとに妄想を繰り広げてきた。
ある者は四半世紀も、ある者は10年も。
誰も彼もが待ち侘びた日々をようやく手に入れかけている。
忘れ去られたフィールドにまた戻ってくることに意味があるのかもしれないと最近では少しだけ懐が広くなった気がしている。自尊感情は自らが醸成した。そうやって胸を張れることも大きな声では言えないが誇らしい。
俺たちの対岸はJERUSALEMだった。
芥田、紀平、野間、原山、それから美森。
種族仕分けをしても俺たちとは相入れない種族に属している。
芽実が事実を書き出した。嘘偽りのない事実は、現実離れし過ぎて誰も事実だとは信じないだろう。
俺たちが書き連ねたラブレターのほうが世の中にはよほどリアルに感じられるはずだ。
芽実は絶対に表に出てこない。出ないことを誓うほどにこれからもずっと。
表に出ないことで俺たちの関係性は荒らされ、複雑になったことを彼女は体験し苦しんだはずなのに、絶対に曲げようとしない。
引っ張り出して解決を図ろうとした涌田のことを彼女は今も恨んでいる節がある。
「全部あいつのせいだ!あいつがあたしの人生を壊しやがった!」
芽実に惚れ抜いている分、喧嘩もすごかった。誤解をときたくて幾度となく喧嘩をしたが、最近は涌田のほうが大人になって「まあ、俺のせいってことでまるく治るならもうそれでいいよ」と言ってくれた。大人になったなあと俺や寄田は苦笑いしてしまった。
芽実はすべてを知って甘えてそういうキャラを演じているのか、それともまだ知らずに怒っているのかは知らないが、「涌田は接近禁止だ!あたしのそばに近づけるな!!」と言っている。
号泣と絶叫を繰り返して芽実は成長した。ひとりで泣いた日々だった。俺たちがそばにいてやりたいのに、頑固で天邪鬼で負けず嫌いだから、そういう時に限って俺たちを絶対に近づけようとしない。拒絶に踏み込めるほど俺たちは強くはない。
俺たちのまわりにも芽実のことで迷惑をかけた。
最近では「否が応でも見せられてたら、いつの間にか娘みたいな感覚になっちゃったよね」と笑ってくれる人ばかりになった。ありがたいと思った。
芽実のお父さんが夢に出てきた。
相変わらず怒っていた。何も言わず俺たちを睨んでいるから、やっぱりお父さんの本意ではなかったのだろうなあと申し訳なく思っている。
でも、この間、芥田と紀平に芽実の保育園の頃の話を聞いて感じたことがあった。
芽実のお父さんは俺たちのことは好きじゃないと思う。でも芥田や紀平がいっしょにいてくれたらなんとか許してくれるんじゃないかと。
「芥田と紀平、紀平のほうが歴は長いのよ。ね?」
誇張なく33年、芽実を愛してきた紀平。ようやく実り始めたあいつの恋心。
芽実が好きになったかって?違うよ、ようやく芽実が紀平の気持ちに気づいたってこと。
「33年片思いして気づかれないとか、そんなことあると思う?!」
紀平に言われても返答に困る。だってお前がそうじゃん!となるからだ。
俺も気づかれるまでにかなり手こずった。かなり時間がかかった。俺をしても10年である。信じられないことだとみんなが言ってくれるから少しは救われる。
芽実を好きになってもまず彼女に自分の気持ちを知ってもらうまでに10年はかかる。
ようやくスタートラインに立てた。彼女と恋愛をするなら長生きしなければならない。自ずと健康にも気をつかようになった。怪我の功名なのかもしれない。