【20084-10】
LAY-RON
人生に条件があるなんてことを想像できるだろうか?
俺の人生はすでに買われている。
親父がたいそうな借金を抱えていた。そのおかげでおふくろは死んでしまった。めみはおふくろに似ていた。まだ小学生だった俺にとって記憶が曖昧になりかけていた時に出会ったから運命だと勝手に決めつけた。
俺の人生はすでにない。所属には所属の王族があってそこの王子が俺たちの管理をしている。
一度だけ俺はその王子の手を噛んだことがあった。大事に至らなかったのはめみのおかげだ。
所属はめみを欲しがった。広告塔に適任だったからだ。
王子は俺以上にめみにご執心だった。
俺とめみは互いに尊敬しあっていた。
めみは多くを聞かずとも俺を理解している。
LAY-RONのマークだって王子の機嫌を損ねないように配慮して芥田と須野が作ってくれた。それほどまでにチームとして俺を大切にしてくれている。所属とは違う。
LAY-RONのマークは俺の冠でもある。
案の定、王子はこのマークに満足していた。誰もが作戦通りだとガッツポーズを堪えて目線を逸らした。
所属には何もなかった。金を集めるためだけの兵隊となった。
破産寸前の組織やコミュニティが買い叩かれて所属させられ、タダ働きによって金を生み出し、その金でまた破産寸前の組織やコミュニティが買われてくる。
「あんたたちは何がしたいんだ?」
生意気に聞いたことがあった。
所属は答えなかった。その代わり、俺にはその日以来監視がつけられた。
世の中に大っぴらには言えないから「ストーカー」として弱音を吐くようにした。
めみはその言葉の全てを信じて俺に免じて所属や王子を愛してくれた。
はっきりと伝えておく、はっきりと言っておく。誤解がないように、俺の人生に関わることだから。
めみは俺に免じて俺に同情してこのLAY-RONのマークを掲げている。
王子や所属の一員として掲げているわけではない。
俺がいなければめみは俺の所属を見限る、というよりも興味もないはずだ。
めみの家には毎晩、何人もの「ストーカー」が来ている。
監視はカメラや盗聴器だけでは飽き足らず、不安にかられた所属の幹部たちが輪番を組んで「ストーキング」している。
俺の言葉の全てをめみに与えることはできない。俺の伝言のすべてをめみに与えることができない。それがもどかしい。
王子には今も何人も愛人がいる。
公然の秘密は俺たち債務者のおかげで守られている。