【20075-10] No,1
LAY-RON
壁一枚隔てて、ガラス一枚隔てて椿は俺を嘲笑っている。
出会った頃は色々うまくいっていたのになあ。。。
椿と俺はすでに10年前から出会っていたけれど、彼女が俺を知ったのは昨年だった。
昨年の今頃はすべてがうまくいっていた。
寄田と寺原をうまく出し抜いて、俺だけを見つめさせることに成功していた。
芥田の存在を隠し通すことで原山や紀平からも守り切ることができていた。
椿が俺を嫌いになり始めたころから俺は本気で椿が欲しくなっていった。
いいよ椿、もっともっと逃げなよ!
女の子といる姿を見せつけては俺は彼女を壊して、降伏させることを面白がっていた。
俺がどうしてそんな暴挙に出たのか誰も知らなかった。
俺は世間すべてから嫌われた。俺を愛する可愛い女の子たちをのぞいてすべての世間に嫌われた。でも別に気にもならなかった。椿が手に入ればすべてはうまくいくからだ。
壁一枚隔てて、ガラス一枚隔てて椿は頬杖をついて俺に微笑む。
「あたし、知ってるの。涌田はあたしの白馬の王子様になりたくて計画世界を作ったんでしょう?あたしを死ぬ間際まで追い込めばあたしは動けなくなる。そしたら簡単に手に入るものね」
俺は今、壁一枚隔てて、ガラス一枚隔てて椿を見ている。それ以上踏み込めないように彼女は完璧な有刺鉄線を張り巡らせた。
「ねえ?あたしが好き?いつまで好き?一生???」
スマホカバーのチャックを弄びながら俺に問いただす。俺の目を見つめることはない。いつも俺の目をみてくれない。まるで罰を受けているような気分だった。
「さあね、、、」
強がって答えるたびに、俺の体から命が失われていくような変な感覚を俺は知ってしまった。
夢に出てきて椿は言う、
「まだあたしのこと、椿って呼ぶの?めみちゃんって呼ばないの??」
あやふやな質問を繰り返す。
俺が答えに窮すると「つまんない。もういいよ」と、壁とガラスを壊してしまう。
壊れて手が届くと思って、期待を込めて目を開くとそこには誰もいない現実を知らされた。
夢と幻想と妄想の間に生きる彼女をつかまえたくて、10年も俺はあらゆるものを壊してきたのに、、、
その後必ず変な笑い声が聞こえて、イラつく。
芥田と一緒にいるときのあの変な声だ。
「だって芥田といると苦しいんだもん、、、」
切羽詰まったその表情は容易に想像できる。
かまわない。どこまでもやろうじゃないの、覚悟はもうできてるよ、芽実。