オクターブの一番下、俺にとっては地鳴りの声のトーンが俺は俺だと思う。低ければ低いほど、腹の中心に響く。俺の感情を世の中に知らしめるためには一番低いトーンで語りかけなければいけない。演説のために用意された俺の本当の声はこの国をまとめあげる。
七色の声を持っているわけじゃない。俺の先祖を辿れば数えきれない声のサンプルを抱えていることになる。実際俺のじいさんは韓国人、ばあさんは沖縄の人間。親父のほうのじいちゃんはアメリカ人とロシア人のハーフだって言ってたし、ばあちゃんはホラ吹なところがあるから真意は誰もわからないけれどヨーロッパの王家の血筋らしい。
地鳴りの声で俺は演説をする。大統領選挙に出馬するのは初めてだった。そんなことできるわけないと、身内や友達に止められた。立場を考えろとか、殺されるぞとか物騒で人権を汚すようなことを浴びせられたけど、俺は出馬を決めた。金は潤沢にあるし、そのために働いてきた。地盤を引き継ぐために、専任者へも金をせっせと運んだ。融資という形をとって首を絞めるようにしているから、あいつが梯子を外すことはないだろう。