こんにちは。
これまで不妊治療クリニックに来院される患者さまの特徴をお伝えしてきました。
これからしばらくは、来院される方の不妊理由を実例を交えてご紹介していきます。
ピックアップ障害でクリニックに駆け込まれるケース
過去の病気などで妊孕性(生殖機能)に不安がある。
そう医師に指摘され、セカンドオピニオンで来院される患者さんは多いです。
下記の患者さんもまさにそう。
この方は過去のクラミジア感染によって、卵管の癒着が指摘されたとのこと。
クラミジアは性交渉だけでなく、プールや温浴施設なども感染経路になり得ます。
国内の性感染症の中で一番多いとされているクラミジア感染症ですが、早期に発見でき適切な治療をおこなえば後遺症リスクは低くなります。
しかし、自覚症状がなかったり初期の段階ではわかりにくいのがやっかいなところで……
クラミジアが子宮頸部から卵管へ侵入し、そのまま発見が遅れてしまうと卵管へ後遺症が残ることも少なくありません。
(もちろん、卵管癒着の原因にはほかにも様々なものがあります。)
今回ご紹介している患者さんのケースでは、卵管が癒着していることからピックアップ障害の可能性が高いと診断されたようです。
体外受精しか方法はないのか?自然妊娠はできないのか?といった疑問を抱えて来院されました。
そもそもピックアップ障害とは
排卵された卵を卵管采がキャッチすることで、受精の場へ卵子が運ばれます。
しかし卵管采が卵を上手くキャッチできないと、卵子が運ばれず精子との受精の場が得られません。
この、卵管采が卵子をキャッチできない状態を「ピックアップ障害」といいます。
「障害」と名前についているので一見診断名のようですが、実は明確にそうだと診断できる方法は現状ではありません。
なぜなら卵子は非常に小さくて、卵管采が卵子をピックアップする瞬間を調べるのは困難だから。
そのため、クリニックによっては原因不明の不妊の一因としたり、卵管因子のひとつとしたりとさまざまです。
ちなみに、原因不明の不妊と言われているもので女性の身体に関する原因はピックアップ障害以外に、
・子宮内膜症(軽度)
・腹腔内癒着(軽度)
など。卵管因子は
・卵管閉塞
・卵管狭窄
・卵管周囲癒着
などが挙げられます。
癒着や子宮内膜症、狭窄などは検査でわかりますが、いずれも直接不妊の原因になっているかどうかを診断するのは難しいのです。
中でも、特にピックアップ障害は診断法が無いため「そうではないか?」と予測をつけるしかできないのが現状です。
治療法はあるのか
残念ながら、医学的に診断できないものに治療法はありません。
しかし、ネットで検索すると何やら「ピックアップ障害には鍼治療が効く」といった情報が……?
うーん、本当でしょうか?
もう少し突っ込んで調べてみると、体外受精を受けている女性に対する鍼治療の効果を調べた研究がありました。
この場合の「体外受精を受けている女性」には、ピックアップ障害の有無は問われていません。
10,968人を対象にメタ解析を実施。
その結果、鍼治療と体外受精を関連付ける根拠は低いという結論に至っています。
確かに、ピックアップ障害ではないかと医師に言われた患者さんが、鍼灸を試したところ授かったという声もあります。
ただし、そもそも論として、ピックアップ障害自体が確定できないものです。
そうとも断言できないのに、効果があると謳うのは――
いささかナンセンスな話なのではないかと、個人的には思っています。
ピックアップ障害と診断された場合、自然妊娠できないのか
冒頭の話に戻りましょう。
患者さんが気にしていたのは、「自然妊娠できるかどうか」。
「ピックアップ障害 治療」などと検索すると、体外受精の話がたくさん出てくるので不安になる人も多いですよね。
正直言って、ピックアップ障害疑いの方に「今すぐステップアップするべきか」を即答するのは難しいです。
もちろんピックアップ障害である可能性を考えて、ステップアップに進むことを考えるべき場合もあるでしょう。
でも、体外受精に進む前にできることはないでしょうか?
出来ることとは、もちろん鍼治療やその他治療のことではありません。
夫婦共々、生活習慣で見直す面はないでしょうか?
行為のタイミングや頻度はバッチリだった?
結論から言うと、冒頭の患者さんは最終的にタイミング法で授かることができました。
つまりは『ピックアップ障害ではなかった』ということ。
実は最後まで奥様しか来院されなかったのですが、話を伺うと旦那様が軽いうつ傾向にあり、ジャンクフードやファストフードを食べ漁っていたそう。
旦那様が生活習慣を改善させられたのは、ヨガとの出会いがあったからだとか。
始めは奥様が動画などを見ながら始め、旦那様にも進めたそうです。
最初は「男がヨガなんて」と思っていた旦那様も、呼吸を深くしたり適度な筋肉の緊張を感じたりと楽しくなってきたよう。
最近は男性向けのヨガスタジオもあるので、少しずつそういった場所にも通うように。
そうこうしている内に、旦那様のメンタルも落ち着きジャンクフードへの欲求が収まったと奥様が離してくれました。
最初は奥様側に問題があるという指摘からクリニックに駆け込んで来られましたが
『実は俺側の問題やったんか!』と旦那様と後から笑い話になったと仰っていました。
いかに夫婦の取り組みが大切か学んだ事例でしたね。
まとめ ~診断名に騙されないで~
不妊の原因が知りたい、という患者さんは多くいらっしゃいます。
それは当然の心理ですし、診断名がつけば安心するのもわかります。
しかしながら、今は調べれば星の数ほどの情報が手に入る時代。
情報に踊らされることで、本当に必要なものが何かがわからなくなってしまうことも。
まして、ピックアップ障害のように診断名や治療法が明確でない場合は尚更です。
大事なのは本質的な問題に向き合うこと。
そして、1人で抱え込まないこと。
不安に思ったら、冒頭の患者さんのようにセカンドオピニオンをとったり、信頼できる人に相談してみてくださいね。