連載小説【汚し合い】

連載小説【汚し合い】

JERUSALEM's

JERUSALEM's

今までの恋愛は全戦全勝だった。戦う前から種を蒔くだけで勝手に上手に育ってくれたから手をかけることもなかった。やりがいはあった。かわいい子たちだったと思う。すべての思い出に感謝しているし、美しく保存している。

俺は今、人生の節目を迎えている。年齢的にもキャリア的にも。

大きな仕事をいくつも任されるようになった。というよりも、頼まれるようになった。指揮系統があやふやになってきたのは、俺が出世している証拠だろう。これお願いね、と言われるのではなく、これに参加してくれますか?と言われるようになったからだ。

独立起業した。それは収入の目処がついたからというよりも、俺自身が巨大になりすぎたからだった。収入の予測が所属では拭いきれなくなってしまった。喧嘩別れなんてとんでもない!恩義があるから独立した。

ひとりの女性と出会ったのはそんな時だった。

ある仕事を任された。俺の部門とは別の部門で活躍している無名の人間だった。たぶんこれからも仕事で交わることはない。だから恋愛に踏み切ってもいいと思っていると彼女は言う。プライドが高い女だ。自分の思うままに暮らせないと不具合を生じさせて自殺しかねない、そういう危うい女だ。

目立つことをとても嫌がる。俺と同じだと思った。嫌なことは絶対にしない、そう決めているのと言えば気持ちが良いものの、それが周りに迷惑になることも多々あることも自覚しているからいつも頭を悩ませていた。

俺ならそう思ったらそう実行する。でも彼女はそう思ってもまわりの判断を仰いでから行動する。わがままなのか思慮深いのかよくわからない女だと思った。

別の部門で互いに活躍しているけれどやっていることは一緒だ。同じクリエイティブな人間で同じようなポジションにいる。だからかもしれないが、恋愛のやり方がまるで同じだ。

時々ラブゲームなのか、叙情的な感情のやり取りなのかわからなくなる時がある。でもそういうモノを掻い潜って発表した作品というのは不思議とウケが良かったりする。

ディレクション。

俺たちの恋愛は汚し合いだ。互いの思いのままに懐柔しようと作品をディレクションする。感情操作をしようと、登場人物に語らせる。

付き合うには至らないこの状態にいる俺たち。

彼女は好きだという癖に部屋には一歩も入れてくれない。飲み会に誘ってもこようとしない。土日は何をしている?と聞いてもはぐらかす。会えるのはこのオフィスビル内だけ。住んでいる家も知っている。訪ねることも容易だ。しかし彼女のにこやかな表情が常にノーと言っている。

もしかしたら彼女の目にも俺はそんなように映っているのかもしれない。だから汚し合う。感情を意のままに操るために、自分に隷属させるために。

俺は怒りの感情がほとんどない。でも彼女の一挙手一投足にはひどい怒りを覚える。キッチンドランカーになりかねないほどに、腹をたてることもある。

だから初夜が、待ち遠しい。

絶対に汚してやる。

つづく、、、


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この記事のライター

JERUSALEM's

1997年4月、13歳の春は真っ青な空の如く今も僕達の心を悲しみで塗りつぶしている。赤く燃え上がる気持ちを見逃してしまったことが痛みとなってボクたちを西へと向かわせた。この街にたどり着いて早10年。この街を大王の都、エルサレムに喩えた理由を小説にしていく。

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