📘 目次:星の丘のバク
1. 第1章 バクが夢を食べないと決めた日
― はじまりは、静かな丘の上で ―
2. 第2章 夜のポストと光る手紙
― 届かない声が、そっと光になる ―
3. 第3章 バクがかつていた、夢のない星
― 忘れられた希望が、道しるべになる ―
4. 第4章 夢を信じなかった男の子
― 名前のない夢が、またひとつ生まれる ―
5. 第5章 夢の声がきこえた夜
― ありがとうの星が、夜空に還る ―
✉️ あとがき バクからあなたへ
― 夢を忘れそうな夜に、そっとひらいてください ―
第1章 🌟バクが夢を食べないと決めた日
ぼくがバクと出会ったのは
星の丘とよばれる、小さな星の上だった。
そこは静かで、風がうたう場所だった。
月の光がやわらかく草をなで、星々が囁きあっていた。
星の丘のてっぺんに、バクはちょこんと座っていた。
まるで、何か大切なものを待っているように。
「こんにちは」とぼくが言うと、
バクは顔をこちらに向け、目を細めて言った。
🐾「こんにちは。きみの夢の匂い、すこし甘いね。」
「夢の匂いがするの?」
🐾「うん。ぼくはバクだから、夢の匂いがわかるんだよ。
だけど、もう食べるのはやめたんだ。」
「どうして?」
バクは、少しだけ空を見上げて、ぽつりと話し始めた。
🐾「むかしは、たくさん夢を食べたんだ。
怖い夢、悲しい夢、誰かが隠したい夢。
みんなのためになると思ってた。
でもある日、小さな子の夢を食べてしまったとき、気づいたんだ。」
「何に?」
🐾「その子はね、怖い夢のなかに、大切な希望を隠してたんだよ。
ぼくが夢を食べたせいで、その希望まで消えてしまった。」
バクは、そっと鼻を草にすりつけた。
そこには、見えないけれど、だれかの夢が落ちていたのかもしれない。
🐾「それから、ぼくは夢を食べるのをやめた。
夢は、たとえ怖くても、誰かの心からうまれたものだから。
たべてしまえば、その人の夜が空っぽになっちゃう。」
「じゃあ、今は何をしているの?」
🐾「夢を見守ってる。
食べるかわりに、そっと寄り添ってるんだ。
夢のなかで泣く子の隣に座って、ただ静かに。」
ぼくは、それがとてもやさしいことだと思った。
夢はときどき、こわくて、さびしくて、
だけど、だれにも見せたくない大切な心のかけらだから。
バクは最後にこう言った。
🐾「星の丘はね、夢たちが迷いこむ場所なんだ。
ぼくはその夢たちを、そっと抱きしめてる。
食べるよりも、ずっとあたたかく、ずっと難しいことだけど。」
その夜、ぼくは静かな夢を見た。
バクがそっと隣にいて、風がやさしく歌っていた。
